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ねぎとろ丼

ねぎとろ丼

建前は敵同士

「そこを退いて。私はここを通らないと」
「無理な相談よ。私はあなたを通してはいけないのだから」

 紅魔館のメイド長、十六夜咲夜は白玉楼に押しかけた。亡霊嬢の首を取るために。
 白玉楼の庭師、魂魄妖夢は門の前に立っている。外敵から主人を守るために。

「お嬢様の命によって、邪魔する者は容赦無しとなっている」
「私も、私のお嬢様の言いつけ通り如何なる者がやってこようとも……戦わなければいけない」

 咲夜が手を握り、開いた。どこからともなく取り出した複数のナイフを指に挟んでいる。
 妖夢が背中と腰に手を伸ばした。二本の刀を構え、威嚇する。

「やはり、やるしかないのね」
「あなたが退いてくれれば良いけど、そうはいかないんでしょうね」
「ええ、そうよ。そしてあなたも、譲る気は一切ない」
「わかっているじゃない」
「お互い」
「従うべき主人の元で働く者なのだから」

 二人が争い合うのはこれが始めてではない。もう何度も戦った。
 その戦いを通じて、何度も心を通わせた。
 一方は吸血鬼の僕。他方は亡霊の僕。
 主人同士でいがみ合うことがあれば、当然下の者同士の争いも発生する。
 今回のこともその一環である。この争いに従者同士の感情を差し入れる余地はない。
 賢き主人の考えに下々の気持ちは考慮されないからである。
 例え争い合っているこの二人が真実の愛を誓い合った仲であったとしても、ここでは無意味である。

「もっと違う形で出会いたかった」
「そうかしら? 私はこういうの、好きよ」

 愛し合っている仲なのに戦うなんて出来ない、等の泣き言はできない。
 お互いそんなことすれば主人に笑われ、見下されていると思いきっているから。
 戦争と同じで、自分達は一兵士にすぎないと思っているから。
 司令官の描く戦略に影響してはいけないと、これから戦う相手のこと等案じてはいけないと決めているから。

「いい加減倒れればいいのに」
「いいや、そちらが諦めれば良いのよ」

 口では相手を蔑み、侮辱する。心では相手を気遣い、心配する。
 だから二人はとても苦しそうな表情で戦っている。
 咲夜は避けられやすい弾道のナイフを投げたい。
 妖夢も避けられやすい太刀筋しか描きたくない。
 お互い体力を切らして戦えない状態になりたいと思っている。
 致命傷にならない程度の怪我で相打ちになりたいと考えている。
 だけど手を抜くことはできない。主人がそれを許さない。
 同時にそれは主人の命令に背くことでもあるのだから。

「妖夢、あなたのことが好きよ」
「愛している、咲夜のことを」
 
 そう同時に呟き、お互い攻撃を放った。その攻撃がかすると、二人は倒れてしまう。
 命中したわけではなく、体力を消耗しきってしまったせいだ。
 二人、倒れたまま相手の名前を呼ぶ。手を伸ばし、指先で触れ合う。

「引き分け、ね」
「……」
「ねぇ妖夢」
「うん?」
「このまま……ううん、なんでもない」
「ええ」

 このまま倒れたままで居ようとも、いずれ主人がやって来る。
 戦え、と命令されれば立ち上がるしかない。それが従者という者なのだから。
 寝転んだまま見つめあい、にやける二人。

「今度は私が勝つ」
「いいや、咲夜が負けることになる」
「私が勝って、この戦いを終わらせてやる」
「違うわね、私が勝つのよ。そしてあなたは命乞いするの」
「何て命乞いするの?」
「愛する者を斬れるのか、と」
「それで、私は何て言うのかしら」
「……」
「答えられないんでしょう」
「……ええ」
「だって、そんな状況、私もあなたも望んでいないんでしょうから」

 ひとしきり休憩した二人は武器を取った。
 ナイフを一本握り締める咲夜。刀を一つ構える妖夢。

「もう一度言うわ、妖夢。そこを……退いて!」
「無理な相談よ。私はあなたを通してはいけないのだから。それに、通してしまってはあなたと離れてしまうことになるのだから」

 二人の戦いは終わらない。終わらせてはいけない。
 二人にとってはそれが唯一、一緒にいられる時間なのだから。

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あとがき

主人達は従者同士の気持ちを知った上で争わせている、サディスティックです。

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